憂鬱の推移「セルビア ベオグラード5」

セルビア3日目。ホテル・モスクワで2日目の朝食をとる。またドレスを着た昨日と同じ女性のピアニストが演奏をしている。大きな窓からの採光も良く、毎日こんな宮殿のようなところで食事をしているとまるで貴族にでもなったかのようだ。隣の席はスーツ姿のカップルやビジネスで宿泊している人たちが目立つ。

こんな僕のような大して金のない旅行者でもこんなに贅沢ができるのならば、インフレ時に欧米などに行かずにここへ来れば空いていてゆっくりできる。オーバーツーリズムで人が右往左往している場所では、こんな時間は過ごせないだろう。そのうちオーバーツーリズム被害に曝されていないセルビアは観光地として注目されるかもしれない。まぁ自分はこういった観光マーケットが稼働していない国がリアルで好きなのだが。

今日は昨晩ダウンロードしたMoovitという交通機関を検索できるアプリを使って街を移動してみることにした。ベオグラードにはバスのフリーパスカードがあるそうなのでホテルの前にあったキオスクで聞いてみた。売っていたので買ってみると、小さな紙っぺら1枚の一日通し券を渡された。バスにもトラムにも乗れるそうで、すぐ隣がバス停だったのでバスに乗車してみると運転手はほとんどその紙をチェックなどはしていなかった。行先はユーゴスラビア博物館だったが途中で聖サヴァ教会というかなり大きな施設で降りた。コロナ前のガイドブックだと内部は建設中と書いてあったが工事は終わっており、この内部の作りはセルビアらしい豪華な装飾で彩られていた。観光客も多くおり、昨日の小さな修道院のような教会とはまったく違う。さっきまで外は雨がパラパラと降っていたのだが、空は晴れていたのでそのままバスに乗りユーゴスラビア博物館に向かう。

アプリのMoovitは乗り換えの指示も分かりやすくマップ上で教えてくれ非常に便利だ。しかし、ベオグラードのバスは遅れたり満員だったりと乗れないこともあり、時間がかかったがやっとユーゴスラビア歴史博物館に到着した。公園の奥に大きな建物があり、壁画のようなものが建物中央に描かれている。しかし、そこは改装中で「今は向こうだよ」と現地の人に言われて別館の旧博物館へ向かった。入るとエントランスにカフェがあり庭園を見渡せる。太陽が出てきて非常に良い天気になり、昨日も今日も日中はシャツ1枚で十分な陽気だ。

旧博物館に入ると、中は小さな展示室だった。しかし展示してあるものは内戦中の銃器、ポスター、衣類、生活用品などがあり、興味深い。チトー政権の頃の写真も色々展示してある。わずか100年くらいでなくなってしまった国ということが非常に幻想的で、散ってしまったということが儚い。1929年の建国、2003年までの期間である。なんというか人の一生の長さにもとれる。博物館を出て先に進むと「花の家」という建物がり、中にはチトーの霊廟がある。天井はガラス張の温室になっていて植物に太陽の日が降りこんでいる。その中にチトーお墓があるのだ。日本からやっとここま来ることができた。通路にはチトーの使用していた執務室の机や当時の写真も飾ってある。チトー大統領没後10年でユーゴスラビアは解体したのだから非常に強いカリスマ性と支持力を持っていたのだろう。今の世の中にはそんなカリスマ性を持った人物は政治ではなく、どこか他のところにいるのかもしれない、などと思いながら今現在、強固な国という形を維持していくこと自体が少しぼやけてきた。

結構歩いたので庭園を見渡せるカフェでフルーツジュースを買いテーブルで寛ぐ。日常の仕事から解放されて、まだ数日間もこの生活が続く。日常から解放されて本来の自分、一個人の自分はどこへ向かいたいのかがはっきりしてくるのではないだろうか。それを知るのが旅の目的でもある。自分の一つ一つを確認していく作業とでもいうのだろうか。しばらくここで太陽を浴びていたかったが、ユーゴスラビアの幻想やチトー政権の思想が今も残る博物館を後にした。

博物館からバスで市内へ戻る。バスは相変わらず満員で人がぎゅうぎゅうに乗っている。昼時だったので飲食店の多いスカダルリアの近くで降りて、どこかで昼食を食べようと退廃感にある通りをしばらく歩く。ステレオタイプな広告や落書きの建物に気持ちが酔いながら歩いていた。軽く食べようと現地のファーストフード店の肉のグリル料理を提供している店に入る。サラミのようなソーセージに玉ねぎが添えてあり、ソーセージは肉が詰まっていて美味い。

街の中央広場、ミハイロ公の像がある場所へ行きオープンテラスでコーヒーを注文する。街の中心で頼んだコーヒーは400円くらいだった。今日はもう歩くのも疲れたので街の中をただぶらぶらと散歩していた。時たま教会があったので中を覗いたり、唯一のデパートに行ってみたりした。コンパクトで住みやすそうな街である。オープンテラスがあちこちに並んでおり、することもなくなったのでビールを飲んで寛ぐことにした。LINEを確認すると姉から数件、母親の件で連絡が入っていた。内容を見て急に現実にもどってしまう。今、自分は日本にいないので姉が母親の入院の件で色々と手続きをしてくれているのだ。現実と今目の前に見えることの交差に戸惑う。

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