憂鬱の推移「ブダペスト、ハンガリー 2」

ブダペストのバスターミナルで降りて街の中心地へ向かう。バスの中で携帯の電波が途切れてしまいインターネットに繋がらなくなってしまっていたが、バスを降りても繋がらず、どうやらsimカードの容量が尽きてしまったらしい。ネットに繋がらない状況になってしまい、まったく道のりが分からず、しょうがないので道に書いてある標識を見ながら駅を探す。辛うじてGoogle mapが、時々ではあるが画面に自分の現在地を示していた。地下鉄を見つけ階段を下りていくと切符売り場と改札があり、それを見て昔行ったオーストリアのウィーンを思い出した。改札や切符発券機の配色など似ていて、ヨーロッパに来たのだなと思った。それにベオグラードには地下鉄というものはなかった。

インターネットが繋がらないので、路線図と地球の歩き方のマップを見ながら、泊まるホテルの場所を確認する。切符発券機の操作は触ってみると、ヨーロッパの発券機なので分かりやすく3日通し券のフリーパスをクレジットカードで購入した。ハンガリーの通貨は持ち合わせていなかったが市内のどこかで下ろせばいいだろう。電車の車内は綺麗で治安の良さそうな雰囲気で、流れているアナウンスや匂いまでベオグラードからよその国に変貌した。携帯電話が圏外なので降りる駅をよく確認しながら乗っていた。駅に到着し、階段を上がるとその街並みは西洋という街並みが建ち並んでいた。建物や、それに掲げてある広告塔、歩いている人々、ベオグラードとは様変わりし、西欧諸国に入ったことを実感する。空は曇っていたが、ここは西欧とはいえ東欧だ、その曇った空が街の憂鬱さが合っている。僕は曇った生暖かい空気の街を呆然と見ながらゆっくりホテルのある方角へ向かう、ガイドブックの紙の地図を見ながら。

後から分かったことだが、この圏外で紙の地図を見ながら移動していたこの瞬間が一番楽しかったということだ。昔、移動時は圏外になった携帯で、自分で地図を読みながら色々な場所を探したものだ。それがGoogle mapが使えるようになり、どこへ行くのにも迷わず短時間で辿り着けるようになった。便利になった反面、旅に出てから折角のやるべき貴重な作業が失われてしまった。人はそんなに効率を求めて何に向かうのかは不思議だ。この移動時間、手作業は大変で忙しいが時間は不思議とゆっくりと流れた。

メインストリートであるアンドラーシ通りを真っ直ぐ歩けば大体のところに辿り着く。歩いているとオペラ座のハンガリー国立歌劇場に到着し、何人かの観光客が外観の写真を撮っている。ホテルはオペラ座のすぐ近くのはずだったのだが、そこから歩くと1分くらいのところにあった。それでホテルの名前がホテル・オペラだったのか。オペラのチケットは1枚買っていて、この立地であれば着替えてすぐに歌劇場に向かえてしまう好立地だ。

ホテルの受付でチェックインを済ませる。エントランスは広くてセンスの良い空間で1泊15,000円。東欧価格で考えると少し高いが、インフレと立地からするとそれ位だろう。部屋に入ると明示してあったとおり広い。ここに4泊するので少し広めの部屋を取っておいた。ベッドがシングルではなくツインになっていたが、空間が広くて過ごしやすそうだった。窓からの眺めは残念ながら他の部屋群であった。

SIMカードを買いに行こうと部屋を出てvodafoneのショップへ向かう。店は混んでいて番号札を貰い並んでいた。15分くらいで呼ばれ、5GBのカードを買いセッティングしてもらった。日本のアマゾンでは1000円で買えたのだが、ここでは4000円。10日間の旅程であれば15GBくらいあると持つだろうか。隣に両替商があったので余ったセルビア通貨をハンガリー通貨に両替してもらい、そのまま街の中心にある聖イシュトヴァーン大聖堂に行く。時刻は17時。だんだん日が暮れてきていて夕日が大聖堂に反射いている時だった。その時、カーンカーンカーンと鐘が鳴り響いた。それは大きな音で聖堂の前の広場に響き渡った。その鐘の音を聞いて、何か頭の中にあるもやっとしたものが叩き起こされたような感覚になった。パンデミックで閉じ込められていた3年間の出来事や、しばらく来ることのできなかった海外、そういうことが一斉に終わり、新しい時代が始まった、いや始まっていることを告げられているようだった。パンデミックの時も先のことが何も分からなかったが、それは終結し、また新しい白紙の時代が始まったような気がした。しかしパンデミックの頃が懐かしく暖かくも感じてしまうことが不思議に思える。

鐘の音に皆が聞き入っている時、ちょうど日没になったので、ドナウ川の方へ歩いていった。川が見えてくるのと同時に太陽が沈んでいく。その光景があまりにも綺麗で歩く足が止まらない。先に行くと川に架かった鎖橋が見えてくる。川沿いを歩く人、ベンチに座っている人、みんな川を眺めている。最初に想像していたブダペストやドナウ川が期待以上に綺麗な光景をもたらしてくれたことにため息が出る。夕暮れと共に鎖橋は少しずつライトアップされていく。100年、200年前の昔からあまり変わらない光景なのだろうか。空と川と橋、川の向こう側にある王宮の明かりが見え、しばらくそこから動くことができなかった。

写真をしばらく撮っていると、撮影を頼まれたりしたが、朝食を食べてから何も食べておらず夕食を食べにレストランへ向かうことにした。

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