憂鬱の推移「ブダペスト、ハンガリー8」

ブダペストも4泊もしているとドナウ川沿いを何度も歩いたし、川を渡って西側にある王宮にも行ったし、ある程度の場所は行ってしまいメインの通りのアンドラーシストリートを何度も往復していたら、いよいよ特にやることはなくなってきたので、カメラも部屋に置いて手ぶらで街中をぶらぶら歩いていた。

滞在してからの後半、この何もすることがなくて手ぶらで街中を散策しているだけという行為が至福の時なのだと思う、それに結構面白いことにぶち当たる。なにせ見た目がやることがなさそうな暇人であり、何をしている人なのかよく分からない。ふとそういえばあの”世界で1番美しい”とされるNYカフェに行こうと店に向かって歩いてみた。時間はまだ朝の9時だったのでちょうどモーニングが食べられる。

カフェの扉の前には数人が並んでおり、数日前に来た時には夕方ものすごい長蛇の列だったがすんなり入ることができた。中に入ると、親切ではなさそうな表情のウェイトレスの女性が席に案内してくれて、どのスタッフも接客のローテーションにくたびれたような顔をしていた。しかし、カフェの内装はどでかい宮殿のようでこれには笑った。席の配置は何箇所か点在しており、自分の席は大通り側の席でなかなか広々としている。椅子テーブル、床壁天井の装飾、目の前は天井画と彫刻と柱と金ピカである。朝のモーニングを注文するとオムレツと珈琲で4000円。まぁこの内装だと入場料代だと納得するが、このどこから運ばれてきたのだろうというオムレツは具がいっぱいでかなり美味して悪評などとんでもない。ウェイターの観光客相手に対するそんな態度すら気持ち良く思える。

あまりにもデコレートされすぎた空間にドレスアップした女性が何人も入ってくる。そこに運ばれてくるのは皿が何段にもなったケーキスタンドでマフィンやら色々と乗っている。ここは宮殿ごっこが好きならば存分に楽しめる。この光景を見ているとコロナ禍は本当に去っていってしまったと、そういえば「まん防」なんてのもあったことを思い出した。食べ終えて、ゆっくりしている場所でもないので、というか僕は舞い上がってきてしまい、とにかく広い店内を散策してみると、奥の方ではクラシックの演奏をしていた。この時代にこの音楽とこの宮殿の組み合わせを見ていたらあまりにも甘美なのでこの世の終わりになるのではないかと思ってしまった。そしてそれを背景に写真を撮っている観光客。やはり平和だ。世の中は変わっていない、ただ反復するだけだ。

一度来たらまた来ることもなかなかないのだろうというような印象で店を後にして歩いていると、「ハイ!ニューヨークカフェってどの辺にあるの?」とかなりご機嫌な観光客のカップルに聞かれ、あっちの方と答えると笑顔で向かっていった。特に予定もなくまた歩き始めたが、ブダペストの街中は秋晴れで街路樹はほんの少しだけ紅葉が色づいていた。

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