八重山諸島、春の海3

その店には何だか妙な手作りのアクセサリーが置いてあり、Tシャツなども沢山あるのだが、デザインが独特でカッコいいのかどうか分からないグラフィックのプリントで、一周回って、これカッコいいですね!と言ったら、店主が「そう?嬉しいねー、それ俺がデザインしたの」と言い、そこから色々なことを話し始めた。

「現代人は本当に大変だと思う。変化が早すぎるから追いついていくのが大変だろう。そのうえモルモットのように働かされて、それじゃ頭がおかしくなっちまうのは当然だよ。」なんてことを言い、確かに実際大変だと感じているので、それじゃどうすればいいんですか?と尋ねると、こう答えた。「ここに来て星空と会話する時間を作るということを真剣に考えた方がいい」

この島へ来た意味、その何となく的を得たような答え話してくれたので、結局、回答はそのあたりにあるのだろうとおぼろげに分かった。

「あんたらみたいな旅に出られる人はまだマシで大丈夫回だけれど、問題は外に出ない現代人だよ」おじさんは現地の出身の人?と聞くと、カメだか何かに乗せられて気が付いたらここに到着して、いつのまにか住んでたよ、という惚けた答えが返ってきた。折角だから何か買おうかと雑貨を選んでいたら、Tシャツがいいんじゃないか?俺の話したことがそのデザインに全てが書かれている。と言うのでそれを買ってみた、よくよく見るとすごいデザインでいつ着ていいのか分からない。「人類はDNAで過去から繋がっていて、遡ると40億年前まで戻るんだ。そこまで戻れとまでは言わないが、自分の子供の頃や母親の胎内にいた頃の記憶を呼び戻すように考えるんだよ。そうすれば現代の風習に刷り込まれた頭の中が綺麗になるから」

言っていることは良く分かるし、自分が今いる島の海風にあたりながら、そんな話を聞くと説得力が増して聞こえてくる。もし島に泊まったら星雲が相当綺麗に見えるんですか?と聞くと、「見たいと思えば見えるよ。」何を尋ねても回答が精神世界を通した答えになってしまう。が、何が正解なのか選択するのが複雑になってしまった現在には、時々はこういった世界観に浸るのも必要にも感じる。

じゃあそろそろ行きます、と店を出ようとすると、眼力の強い店主は「気を付けて行けよ!」と声を上げた。元気そうに別れたが若干寂しさも残るのが旅の別れ。帰りの便の時間の16時になったので港へ戻り、フェリーで石垣島へ戻った。波照間島は小さいけれど石垣島もなかなか小さい島だ。ちょうどサンセットの時間に戻ったので着いた港から観音埼岬へ車を走らせる。岬へ着くと小さな駐車場があり、そういえば3年前にここに来たことを思い出した。海の方へ歩いていくと、「今日は良い夕日は見られますかねー」とおじさんが話しかけてきたので「どうでしょうね」と返して奥の方へ向かって歩く。どうも空に靄がかかっていて3年前に見た強烈な夕日は見られなかったが、ぼんやりとゆっくりと沈む小さい夕日を見ていると、先程会ったおじさんが話しかけてきた。さっきから飛んでいるドローンはこのおじさんの物で手にはカメラを持っていた。趣味でカメラをやっていること、退職後、石垣島に移住して1年くらい住んでいること、家賃や物価のことなど色々と話した。1年石垣島に住んで、あの台風を経験してみることを強く勧められ、確かに一度くらいはそれも楽しそうだなと盛り上がる。

ホテルに戻り大浴場で風呂に入ったが、この時日焼けの跡がかなり沁みて痛む。それから街に繰り出し、土産屋に入ってみていると、店員が「お兄さんたち夕食はまだ?」と聞いてきたので、まだですと言うと、「この時間なら二回転目だから予約しないでも入れるよ。地元の人に人気のある店があって、教えるね」と3軒ほど教えてもらった。それにしても、ただ歩いてるだけで色々な人から話しかけられる。行ってみた居酒屋は家族連れが一組入口で待っていて、中へ入ってスタッフに聞いてみるとかなり忙しいようで走り回っている。席は空けるからちょっと待っていて下さいと一生懸命に片づけを始めた。しばらくして案内され、周りを見渡すと現地の人達だろうか、大きな笑い声で宴会をしている。現地とは言えテーブルにはタッチパネルが置いてあり都会にいるのと変わらない環境で注文する。沖縄料理がメインなのだが、出されたゴーヤチャンプルーはトロトロのタマゴが乗っていて独特のおいしさだった。島らっきょうも刺身も新鮮で牛肉の握りも柔らかい肉であり、教えてくれた雑貨屋の店主に感謝した。店の名前は「まだんばし家」

泡盛を飲んだのでほろ酔いで街中を歩きながらホテルへ戻る。今回は2人で来ていたのだが、これが一人だったらもっと当てもなくどこかへ歩いて行ってたかもしれない。

八重山諸島、春の海 2

朝起きて携帯で波照間島行きのフェリーの運航状況を調べると終日丸印がついていた。天候は晴れだったので期待していたのだがあっさり大丈夫だった。前回来た時は2日連続欠航していて半ば諦めていたくらいなので2泊3日で波照間島へ行くことができるのは運がいい。ホテルの朝食ブッフェを食べ終えてフェリー乗り場まで歩く。ルートイングランディアというホテルなのだが朝食、大浴場、立地からするとかなり良く窓からの眺めもいい、建物は昭和な感じだがまたそれも良かった。

フェリー乗り場でチケットを購入すると具志堅の像が待ち構えていて3年前を思い出す。しかしあの頃のひっそりした空気間はなく、ひらけてしまったような雰囲気になっている。都内もそうだが、コロナはずっと開けないようなことが言われていたのが今やそれを全く感じさせることはなく人、人、人の波でもはやバブル状態のようだ。自分の場合はあのひっそりした瞬間、誰も行かない時に行くのが好きなので、バブル状態に行くのは苦手と言えばそうなのだが。などと考えていると波照間島に到着した。

ほぼ満席のフェリーは石垣島から1時間くらいで着いてしまうのだが、もはや台湾の近くだ。フェリー乗り場を歩いていくと、レンタサイクルや民宿の看板を持った人達がいるので、適当に原付バイクのレンタル料金を聞いて店を決めて車に乗り込むと島の中心地にある店まで車は走った。レンタル店に降ろされた人達は10人ほどで家族で来ている人達もいる。石垣島では欧米人を少し見かけたがここには日本人しかおらず、まだ海外の人達からは未開の地なのであろうか。

マップをもらい原付で走り出し、念願の久しぶりのニシ浜へ向かう。午後には潮が引いてしまうそうで午前中から昼時がいいということで急いで向かうと見覚えのある坂道を右に下っていくとハテルマのブルーが目の前に広がってきた。二回目なのだがやはりこの青は深くて透き通っていて独特の色で180度に広がり周りには何もなく飲み込まれてしまいそうになる。原付を駐車場に停めて浜辺に行くともう泳いでいる人達がいた。4月のこんな時期に少人数で泳いでいるなんてとんでもなく贅沢な遊びに違いない。しばらく海を眺めていると、隣にいた男性から声を掛けられどうやら島マニアらしく、ここへは何度か来ているそうだ。彼が言うにはおススメは奄美黄島いいですよ!と激押ししてきたので、それ次回行ってみますと話してしばらくビーチで突っ立っていた。

いる人たちは全部で15人~20人くらいだろうか、小規模のパーティーだか町内会だかのメンバーで、世界遺産とか遺跡とでも言えるとでも言えるような海を独占している状態。肌がじりじり焼けてくるし、喉はカラカラだし、ちなみに水ペットボトル2本は買ってきたがもう温い。原付もあるし、このまま最南端まで突っ走っちゃおうと友達とブイーーンとバイクで信号なしの一本道、周りはサトウキビ畑、たまにヤギ、を両端にみながら走っていくと、10分くらいで次のビーチに到着した。そこに女性がいて、一人でビーチに歩いているのが怖いと言うので一緒に茂みを歩いていくと岩々のある海でビーチではなかった。話をすると石垣島へ移住して1年くらい住んでいるそうで、なんとも移住した顔という雰囲気だった。

そのまま原付に跨り次のビーチへ着くと、2人しかおらず、比べるとニシ浜の色の方が圧倒的だが、そこらへんにこんな浜辺が散らばっているこの島にマジ泊まりてー!と友達と絶叫しながら浜辺を歩いていた。浜辺から最南端の碑まで移動すると、断崖絶壁の岩々があり、その上をゆっくり歩きながら海を見下ろすと激しい波が打ち付けていた。ここの景色も相変わらず絶景だ。ここを見たら後は集落に行くことくらいしかすることもなく、昼時になっていたので原付を走らせる。

前に来たことのある定食屋がやっていたので、そこで豚の角煮定食を食べると3年前と同じ味がした。この店は一体いつからやっているのだろう。客は入れ替わり入ってくる。ここを出て村の中をバイクで走り、なんとも言えない集落の様子を見ていたらお土産屋を見つけた。以前はフェリー乗り場にあった店が家で店を構えることにしたみたいだ。貝殻で作ったアクセサリーなどが売っているが、それにしてもこんな離れ島でやっている店は非常に独特の雰囲気がある。午後になってもとにかく暑いのでカフェで休憩することにすると、オープンテラスのカフェはかなりの客で埋め尽くされている。日傘が設置してあるので涼むこともできて、色々な人達が来ていて見ていると面白い。それにしてもここは一人旅の人が多く、何とはなしに話しかけている。

そしてこのカフェを出て隣に土産屋があり、そこに入ったときに独特の雰囲気の店主と会うことになった。

八重山諸島、春の海 1

冬場はとにかく寒くて気温による行動制限が毎年かかってしまうのだが、今年は近所の温泉、というかスパ入り浸っていた。小雪がちらついているときの露天風呂なんてものは極上のもので、そんなことばかりしていたら、いつの間にか関東に桜が咲いた。

どこかの時点で沖縄へ行って冬に溜まった身体のコリをほぐそうかと思っていたのだが、これももはや定例で航空券を調べていると片道1万円の石垣島のチケットが出てきたので即購入。二泊三日でもすでに季節は夏であろう場所で過ごせるのは関東近隣から離脱できるのでここから抜け出せる感があって気分が高まる。一人でも良かったのだが、石垣島は居酒屋が多いので友達と二人で遊びに行くことにした。前日の夜に空港近くのホテルに泊まり、早朝7時の飛行機に乗る。このチェックインをした時にドル円は153円になった。沖縄へ行くことは世界経済的に日本人にも外国人にとっても正解であって、日本国内を追求した方が良い時代になってしまったようだ。まぁ昔から言われていたことだけどあからさまにこんなニュースが流れると予定通りなら日本は沈没するということが本当になってしまいそうだ。たしか2035年頃?かと言って悲観的になっている暇もないので遊ぶしかないと思っているので今のところは問題はないのだが。

飛行機の機内は満席で11時に石垣島へ到着。空は晴れていて、すぐにパーカーを脱いでTシャツになりレンタカーを借りて川平湾へ向かう。ここへ来たのは2021年の11月のコロナ禍の時だったので、その頃のことが色々と思い出されてくる。あの頃はまわりには言わないでこっそり沖縄10日間の旅を楽しんでしまった。しかも観光客が少なく沖縄独占状態で。道路に信号がなく山々が見える山道をずっと走っていくと、前に来たことのある川平湾近くの駐車場を見つけた。車を停めて、短パンに着替えサンダルを履いて小道をずっと川平湾まで歩いていく。前回は誰もおらず一人で独占できたのだが、今回はそれでも4,5人だろうか、人が歩いていた。潮がすこし満ちていて波と風の音しか聞こえないのは前とおんなじだ。この辺りに来るのなら一人で来て、しばらく座って海を眺めているので良い。それだけで頭の中も身体もほぐすことできる。

その後、川平湾展望台へ移動して腹が減っていたので八重山蕎麦をたまたま展望台にあったカフェで食べる。ソーキ蕎麦を注文したのだが、かなりのボリュームで何とか一緒にジューシーもたいらげた。浜辺にあるボート乗り場を散策すると結構な観光客がいた。ボートには乗らなかったが高台からの眺めはガイドブック通りでかなり良い景色だ。今日は石垣島をさくさく周りたかったのでそのまま米原ビーチへ移動する。砂浜からの海は透明で日差しも夏だ。これさえあればもう他には何もいらない。冬場に太陽があまり浴びられず冬季鬱のような心身状態だったのかとも思えてしまうし、こんな陽の光を浴びると汗が出て喉もカラカラに乾くが、石垣島の海の風と波の音は本当に気持ちがいい。

海水浴をしている人達もいて最高の環境なので通常の生活がバカバカしく思えてくる。日が暮れてしまうので足早にサンセットビーチと平久保埼灯台へ行く。灯台からの眺めはどうやら引き潮の時間帯のようで、不思議な海の色になっていた。喉がカラカラに乾いていたので、無人の休憩所の自販機でスプライトを買って飲むと炭酸がくぁあああっと喉を通って死ぬほど美味かった。こんな休憩所でスプライトなんて飲んでると子供の頃の夏休みの感覚だ。そこからは市内へ戻りながら適当に底地ビーチなどへ寄り道をしていったがフサキビーチはまるで海外に来たような雰囲気でプールサイドにBARがあったのでカクテルを飲んで夕日を見ていた。終わらない夏休み、こうなってしまうとしばらくずっとここに滞在したくなってしまう。もう10年前になるが、フィルピンのセブ島に8,9月の2ヶ月間語学留学として島々を巡った素晴らしい日々があったのだが、あれを越える夏休みはこれからあるのだろうか。

友達に運転をお願いしてホテルにチェックインする。もう18時を過ぎていたので、呑みに行く前だったが、なんとホテルに大浴場があったので入浴してから外出した。夏の夜の気温で市内まで10分ほど歩くと、飲み屋街はなかなかの賑わい。都内ほどは混んではおらず、しかし店は満席が多く、裏路地で見つけた良さそうな沖縄料理屋へ入る。石垣島の地ビールを注文して、海ブドウと島ラッキョウ、ゴーヤチャンプルー、刺身盛、グルクン、と定番の料理を食べたが、年に1回はこうして沖縄で料理を囲むことが自分にとって必要な儀式なのかもしれない。それに澄んだ海の近くにこんな美味い居酒屋があるところなんてそうそうない。もう一軒行きたかったが次の日に行けるかどうか分からないが、波照間島行きのフェリーのチケットを予約していたので、早めにホテルへ戻ることにした。帰り道、夜風と虫の鳴き声が気持ちいい。