焼けた残照「ギリシャ編2」

飛行機は夜の20時15分成田発のAir China。Air Chinaなんてしばらく乗っていなかったのだが、コロナ明けからの評判が非常に良く、しかもマイルでチケットが取れてしまったので全く不満はなかった。仕事が夕方の4時頃に終わり家でシャワーを浴びて車を空港へ走らせる。今年は6月に韓国ソウル、9月にマレーシアと仕事帰りに行っていたので、この時にはこの搭乗様態に慣れてしまい何事もなく19時頃には搭乗ゲートで寛いでいた。夕食は機内で提供されるのでそれを食べると料理の出来が良くなっていて驚いた。Air Chinaの機内食なんて今まで不味くて食べる気も失せていたのだが、美味しいし機内も新しくなっていて液晶モニターもタッチパネルに様変わりしていた。なんて居心地の良い飛行機なのだと喜んでいると現地時刻23時半に北京空港に到着した。久しぶりの北京空港は懐かしくてきょろきょろしていると、面倒な乗り継ぎのセキュリティチェックが始まった。元気でなかったら深夜に何度も何度もチケットや顔認証チェックなど辟易してしまうが、自分は10月の夏休みなので全く苦にならずにゲートまで移動した。しばらくベンチで横になろうとすると寒い。そうだ、北京の空港は寒いのだ。この大きな窓枠を眺めていると昔ここで何度も乗り継ぎをしたことが思い出されてきた。

深夜2時半に飛行機は離陸してギリシャのアテネに早朝の8時に到着する。搭乗時間は10時間程であり、なんとロシア上空を飛べるのだ。他の飛行機であれば中東経由で結構な時間がかかるのだが、面白いことに日本国籍者でも中国の飛行機に乗ってさえすればロシアを通り欧州へ比較的早く到着してしまうという何とも裏側の世界を移動する感覚を感じる。まぁ誤爆される危険性の無きにしも非ずだが。

10時間はあっという間で、昨年のセルビアのベオグラード行きの20時間に比べたら何ともないものだった。アテネの空港へ降り立つとちょうど朝日が昇り始めた。

入国審査を終え荷物を受け取る。8時にアテネに到着したが10時半の国内線に乗りサントリーニ島へ行くのだ。再度チェックインするためSkyexpress航空に荷物を預けゲートへ向かう。アテネの空港内は音楽が鳴り響き一気に陽気な雰囲気に包まれている。夏のバカンスが始まったのだ。あまり時間はないが朝食を食べに行く。

ベーグルが美味しそうな店があったのでそれを温めてもらいコーヒーを買い12€。1€=160円だったのでこれで2,000円。まぁ空港価格なのでしょうがないと思うが、ベーグルは美味しくてゲートで食べながら飛行機を待つ。最初のプランではスーツケースを空港の預け所に預けてから乗り継ぎしようと思っていたが、しなくて正解だった。空港内はすでに混んでいてやはりオーバーツーリズムなのだろうか、スムーズではない。すぐに登場時刻になりプロペラ機の飛行機に大勢の人が乗り込む。サントリニー島へは30分おきに飛行機が飛んでいるのだが、どれも妙に混んでいる。すでに10月ではあるのだがみんな夏のバカンスへ向かう出で立ちだ。飛行機が離陸し窓を覗き込むと真っ青な海、そして島々が見える。エーゲ海への旅が始まった。

焼けた残照「ギリシャ編 1」

どこかへ祈りに行こうと思っていた。昨年の秋にセルビアはベオグラード、ハンガリーはブダペストを訪問し、コロナ明けの初のヨーロッパだったので懐かしく居心地の良さもあり十分満足できる時間を過ごせたが、実は前々から行きたかった国が他にあり、それはサウジアラビアだった。

ブダペストの東欧の街の空気を思い切り吸い込めたので(この吸い込んだ空気の匂いや湿度が未だに身体に染み付いていて忘れることがないから不思議だ)次はサウジアラビアへ向かうことは決めていた。そしてこの数年、国外へ出られず「祈り」という行為をしてきていなかった。もちろん国内でもできる行為ではあるのだが、距離と祈りの強さは比例していると自分では考えていて、なるべく遠く少し行きづらい辺境の地。それに当てはまるのがサウジアラビアであり、イスラム教徒以外は入ることのできない街メッカ。ではあるが、メディーナという街には異教徒でも入ることができる。この街だけでもいいから訪れて何百人、何千人の祈りの行為の力に近づいて、神と言われる存在を感じてみたいと思ったのだ。

この数年、もちろんパンデミックの混乱の時期があったが、それ以前から自分のことになるがあれやこれやと手を出して忙しい時間を過ごし、なかなか落ち着けなかったように思う。一度、祈りの時間を設けてそれはメディテーションのようなものでもあるのだが、精神を一度無にするような、その時間が欲しかった。

今年の頭に行き先は決まっているからとサウジアラビアのガイドブックを購入してパラパラめくっているとイスラエルとイランの間がきな臭くなってきて、勢いは日に日に強くなっていった。もしかすると諦めることになるかと思い第二候補の国も検討していたのだが、自分のしたいことは旅だけではなく「祈り」であったのでそうそう決めることはできずにいた。そんな行ったことのない国を調べていると何かのサイトで山の上の断崖絶壁に修道院がある写真を見かけて、あぁそういえばどこかで見たことがあるなと思い出すとギリシャのメテオラという地域にある中世に作られて修道院であった。前から知ってはいたのだが、こんな断崖絶壁の山を登ることはできるのだろうかと調べていると、意外と多くの人達が登っており経験談のブログなどが沢山とあった。

ギリシャへはいつかは行ってみたいという気持ちはあることはあったのだがサウジアラビア(イスラム国)に比べると大分イメージが変わってしまいどうしようかとギリシャについて調べていると、アテネにはアクロポリス神殿など有名な遺跡があちこちにあり、そして目に留まったのがエーゲ海。この海の各地に様々な島々が散りばめられており、ミロス島やサントリーニ島はただの観光避暑地というだけではなく、紀元前2000年頃の遺跡があると書いてあったのだ。紀元前で2000年?今の紀元後2000年という長い歴史を大昔に一度繰り返していることに非常に興味が沸き、歴史的な遺跡と祈る場所、エーゲ海という地中海を取り巻くギリシャ神話を考えていると気持ちはどんどんギリシャに傾ていった。その上、試しにマイレージプログラムで10月の航空券を見てみると往復35,000円のチケットがあり、即決定とした。 

ギリシャ神話とエーゲ海の島々、全く悪い気がしない。