島と海の世界-八重山諸島 3

朝6時に目覚ましをかけフェリーの運航状況を石垣島港のサイトでチェックすると運航する便と未定の便が表示されていた。昨日の夜に商店街のコンビニ(島にはファミリーマートしかないようだった)で買っておいた朝食のおにぎりと味噌汁を食べて窓の外の景色を見ていると厚い雲がだんだんと引けていく。コーヒーはチェックインカウンターの隣に自由に飲めるようにコーヒーメーカーが置いてあるのでそこでコーヒーを注ぎ部屋へ持ち帰る。そうしていると太陽が昇り始めた。石垣発波照間行の始発が8:00の為、その30分前にターミナルへ向かう。天気は昨日までの曇り空から一転して快晴だ。気温もどんどん上がり季節は夏へと戻った。

今日のフェリーのチケットは前日に購入してあり何かがあればキャンセル変更できるとのことであった。スタッフに今日のフェリー運航状況を尋ねると8:00の始発は波照間まで運行するが、その後の帰りの便13:15と16:20は運航未定の為、出発時刻の1時間前に決定するとのこと。なので、運航しなければ帰ってくることはできない。どうしようか聞いてみると「△マーク(運航未定)の時は止めた方がいいですね、帰って来られなくなる」とのことだったので、チケットを次の日の便に変更して今日のプランを石垣島一周プランへ変更する。この石垣島滞在だけで3泊4日もあるので、残りは二日間。波照間島へはどこかの日で行けるだろう、行けなければプランを変更するしかないと考えていた。それにしても3泊4日を同じ場所に滞在するなんて自分にとっては珍しい、そして贅沢だ。世の中が普通の状況であれば海外の場所と場所を移動しているだろう。しかし、この地のアイランドホッピングをしようと思っても時期が11月だと天気が良くても波が高いのであれば運航はなかなか難しいようだ。フェリー乗り場では他の島へ行く便は色々と出ていたので、旅行客や修学旅行生が大勢集まっていた。

とにかく快晴で時間はまだ朝の8時を少し回ったくらいだ。石垣島は一周するのに車で3時間ということなので、最北端の平久保埼灯台を目指してみることにした。行くまでの途中途中にいくつかのビーチがある。朝の8時に真夏の、しかも快晴の石垣島で今日は何をしようかなどと考えることができるだけで最高ではないか。一人で来てみたが、もはや一人でも二人でも何人でも構わない、何をしてもいいのだ。とにかく急いでビーチ、砂浜を探すことにする。

島は西側にいくつかのビーチがあるので左回りでいくことにする。まずはターミナルすぐ近くの観音崎灯台へ車を走らせる。初めての場所でそれが夏の島であり、音楽を鳴らしながら車を走らせているだけ、それだけでも十分だ。

観音埼灯台に到着して車を停めて少し歩くと小高い丘に灯台がある。灯台へ歩きながら左手に見える海は透き通っていてまるで人が踏み入れたことのないようだ。小さな浜辺があり綺麗な貝が色々と落ちていたので拾ってみたら住民がいたらしく足が出てきてバタバタした。周りをよく見ると沢山のヤドカリ達が歩いていた。こんなに沢山のヤドカリを見られることなんて今まであっただろうか。そんなことをしながらゆっくりして歩いていた。北へ向かわなければならないのだが、もはや時間の感覚がなくなってきてしまっている。

車へ乗り込み次の目的地のフサキビーチリーゾートホテルへ。ここは宿泊者でなくても入れるので行ってみたが、予想を超えて素敵なホテルだった。ビーチのすぐ近くにコンドミニアム的な一軒家が連なっていておそらくここへ宿泊できるのだろう。プライベートビーチとプールがあり、このプールがかなり広くてラグジュアリー感がとんでもない。Flank&Jonesの曲でもかけたくなるようなリゾートホテルだった。しばらくプールでくつろいだ後、やいま村という文化財の古民家が保存されているところへ行く。

行ってみると赤い瓦の古民家が何軒もあり持ち主の名前なども記載されていた。この辺りの昔の家は一年中暑いからだろう、風が吹き抜けやすくなっていて自分の住んでいる場所からは考えられない、隙間だらけの作りだ。歩いていると三線の音が聞こえてくる。高い気温の中で三線の音楽が流れてきて古民家にいると、子供の頃かそれ以前の日本の昔の夏のような感覚に落ちいる。

古民家を過ぎるとリスザルを飼育しているところがあり、入ってみると結構な数の小さな黄色い猿が歩いている。しかも逃げないで遊んでいて観光客も喜んで見ている。外にはガジュマルの木があり季節は真夏であり、まるでパンデミックが終了して夏休みがやってきたようだ。

この後に川平湾(かびらわんと読む)という場所へ到着する。始めはここが川平湾なのかどうか分からなかったが駐車場から綺麗な湾が見えた。その湾の方へ行けそうな茂みと細道があり、細道をその方角へ歩いていった。恐らくみんなが行く川平湾コースではないのかもしれない。もの凄い大きな野鳥がいきなりバタバタと飛び立ったり、ハブ注意と書かれた看板があったりと足を踏み入れたくないような道のりを10分くらい歩いただろうか、目の前にまるで時間の止まった様な光景が現れる。

そこには誰もおらず音すらもなかった。目の前は潮が引いた後の濡れた白い砂に海水が湿っている。潮が引いているので小川が何本も流れている砂浜を跨いで歩いていった。どこまで歩いていけるのかは分からなかったが目の前の先には青い海と山が見える。その小川を跨ぎながら海の方まで近づくと透明な海と山、真っ青な夏の空に包まれてしまい。あぁ、きっと天国とはこういうものなのだろう。こんなところに一人でいると孤独というような気持ちは全くなくなり、寧ろ心地が良い。きっと人生の最期はこんな気持ちになるのだろう。

そうしていると自分が来た茂みの道からKトラックが走ってきた。地元の農家のおじさんだろうか、浜辺に車を停めて海を見ながら休憩をし始めた。遠くの方に二人組の夫婦がゆっくりと歩いていた。それ以外は誰もいない静寂と海水。始まったばかりの八重山諸島であったが、最早ここが旅の最終地点になってしまうくらい幻想的な光景だった。

ちょうど昼になり近くに食事ができるところが何軒かあったので昼食を食べに行ってみた。海が展望できる定食屋でアイスコーヒーと八重山蕎麦と炊き込みご飯のセットを注文した。海を見ながらアイスコーヒーを飲むことなど本州でしかも11月のこの季節にできるものではなく幸福感でいっぱいになってしまう。店は10人も座れないくらいの席数であったが家族や二人組の客が入れ替わって出て行った。この時期にここへ来られるこができた幸運な人々。相当なタイミングと運を掴んでいなければ今この瞬間ここにいることはできなかっただろう。それくらい観光客の少ない本来の石垣島は素晴らしく思える。

この後も山の中を北へ向かって車を走らせ、時折、小道に入るとハイビスカスの花が咲いていたり常に飽きさせない発見がある。サトウキビ畑と山々と夏の青空の中、車を走らせることが日々の生活から自分を解放させてくれるのは勿論、今回の旅は2年間の居室内生活を強いられていたのであって感動の度合いが違う。違いすぎて面食らってしまうくらいだ。

石垣島サンセットビーチに少し立ち寄り、目的地の平久保埼灯台に到着する。石垣島の最北端だ。駐車場は満車で車が並んでいるほどだった。車を停め灯台の方へ上っていくと結構な観光客の数。久しぶりに人を見た気がした。灯台からの海の眺望は素晴らしく、本当に日本の南まで来たのだと感じられた。

時間が15時を回っていたので港へ戻ることにした。日が暮れればこの辺りは真っ暗になってしまう。帰りに明石ビーチへ立ち寄り太陽が沈み始めるのを少し見て(ここには数人の人々がくつろいでいた。)また車を走らせると、サンセットを待っている人達が座っている堤防があった。自分も車を停めてしばらく待っているとどんどん空の色が変わっていく。雲が多かったので日が隠れてしまい、こんなものかとまた車に乗り込み走っていると、右手に燃えるような太陽が海に飲み込まれていく様が見えた。

ホテルへ戻った時には日は沈んでおり、夕食の前に星空を見に近くのスポットまで車を走らせたが月の光が強く星はよく見えなかった。それから夕食をとりに沖縄料理屋へ行く。食べたものは、島豆腐のにんにくしょうゆ、イラブチャーのフライ、てびち。初めて食べた料理であったがどれも美味しかった。店を出てまたファミリーマートで翌朝の朝食のおにぎりと味噌汁を買ってホテルへ戻る。明日は波照間島へ行けるかどうか考えながら就寝した。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です