温泉からホテルの部屋に地下鉄で戻ろうとしたが、イシュトバーン大聖堂の近くで降りたので、ドナウ川の夕暮れを見に行くことにした。今夜がブダペストで最後の夜になる。ドナウ川の夕焼けはいつも通りで、大聖堂へ向かっていくとまた鐘が鳴っていた。大聖堂の鐘の音を聴きながらホテルに戻る。温泉で火照った身体を休め、服を着替える。ゆっくりしたいが今夜が最後になるので頑張って出かけてみることにする。
その晩はヨーロッパに行ったら必ずイタリアンを食べに行くことにしているので、イタリア人が経営している小さな店を発見し行ってみると、ドヤ顔の男二人が外に立っていて、中に入ると機嫌悪そうにその二人が注文を取りにきた。「どのパスタにするんだ?ここから選べ」とカウンターの下を見るとガラスの中に何種類もパスタが陳列されていた。こんなえげつなさそうなイタリア人ならこの店は当たりのはず、と注文してみると、見た目はかなり美味しそうなパルメザンチーズがどっさりかかったフィトチーネが出てきた。
一口食べると、う、美味い。生パスタがもちもちで、いや、しかしトマトの酸味が、つ、強い。。これは故意か?大胆にやってるのか?それともドヤ顔二人の適当さ加減なのか??そういえば昔イタリアで食べたパスタにもこんなのがあったのを思い出して、イタリアだと酸味が強いのはありなのか?と想いを巡らせながら食べた。うーん、パスタは最高だけど酸味がなぁと頭の中でパスタと悪そうな店員の顔をぶつくさ考えながら結局全部食べてるんだけども。昼のワインとビフテキも最高だったが、こういう変化球的なものをも面白かったりする。
店を出てアンドラーシ通りに出ると遠くからライトアップされた何かから大音量で音楽が聞こえてくる。そういえば昼間に何かを設営していたのを思い出し向かってみる。そこはかなりの人だかりで、フリーのコンサート会場になっていた。今日が祝日なのでそれのセレモニーなのだろう。出ているバンドやソングライターのアーティストは知らない人達ばかりだったがハンガリーでは人気があるようで喝采を受けていた。そして何かしら訴えかけている。民族や政治やそんな感じの話をしているように受け止められたが、まぁ今夜賑やかなのは結構なんことだ。
そこから離れてしばらく散策しているとチェロ奏者の二人が歩道で演奏をしていた。非常に二人の息が絡み合っている演奏でしばらく聴き入ってしまう。ヨーロッパというものはただ歩いているだけでこんなにも満ち溢れた文化に遭遇してしまう。演奏が終わりその場を立ち去り、ブダペストの街を歩き夜風に当たりながら、僕は喜びのあまり途方にくれていた。