九州一周の旅八日目2、コルベ神父

ここからちょっと不思議な話になるのだけど、ちょっと怖いような不思議な話。軍艦島周遊を終えて、この後は出島へ行ったり、グラバー園を見たりしていた(このグラバー園も説明文を読むと三菱の創始者、弥太郎や龍馬の名前が出てきたり、フリーメイソン日本支部の門があったりと面白い)

まぁ、長崎はやっぱり教会が多い。大浦天主堂という古いカトリックの教会も雰囲気が良い。話はその大浦天主堂の近くを歩いていた時のこと、ある看板が目に入って「マリア像、ロザリオ、聖像各種」みたいなことが書いてあってよく読まなかったんだけど、あれ?何かある、と気になって、ここ行ってみようと思い裏道に入ってみた。すると小さな雑貨店があって、あぁ、きっとマリア像とか売ってるんだな、ちょっと覗いてみようと入ると、かなりの数の質の良い聖像やルルドの水が置いてあった。店員は女性が一人座っているだけだったのだが、奥を見ると通路の先に何かがある。古い木の扉が。あれ、なんだろうなぁ。でもちょっと入りたくないな、なんて思ったんだけど、どうしても気になって、店員に「すみません、あの先には何があるんですか?」と聞くと、「資料室ですよ」と言われ、「コルベ神父の資料室、色々な資料が置いてあるの」資料室?いや、扉に資料室とは書いてあるけど資料室ではないよな、と不思議な勘が働いたのだが、恐る恐る「中に入ってもいいんですか?」と聞くとどうぞと言われて、扉のところへ行くと、入室料100円と書いてあったのでそれを支払い扉を開けてみた。

開けると、あぁ、もうこれは資料室ではないよという独特の空気感のような何か感じるものがあって、来ちゃったかなと思いながら周りを見渡すと、中心には大きな柱があって(後で聞くとそれは昔使ってた暖炉だった)壁には写真や絵がたくさん貼ってある。それは神父が拷問を受けている絵や数人の牧師など、かなり昔の物だ。自主出版してたようなクリスチャンの文集も置いてある。こういう何かの気が立ち込めている場所というのに遭遇することは時々あって、今回は鹿児島知覧の特攻隊記念館などは日中暑かったのに、そこは冷んやりしていたり、以前イスラエルに行った時には気が立ち込めていて湿度があり生温かったり、ともすれば冷んやりした教会が何箇所かあった。

今回もそれと同じ感覚を受けたのだが、一人で中で立っていると、店員のおばさんが入ってきた。「ここは何なんですか?」と思わず単刀直入に質問してしまった。そうすると、店員は「ここはね、昔修道院だったのよ、コルベ神父の」あぁ、修道院か。そうじゃなきゃこんな空気にならないよな、資料室ではないし、扉の外からでも気が張り詰めているのが分かった。「あなたはアウシュビッツは分かる?このコルベ神父はアウシュビッツで人の身代わりになって拷問されて殺されたの」絵を見るとナチスに注射を打たれる神父が描かれている。この修道院もそのコルベ神父がポーランドから来日して作られたそうだ。

そのままコルベ神父の話をしばらく聞いているとこう言った「ここには遠藤周作先生やその仲間、巡礼にきた信者の方々も来るのよ、結構混み合ってね。でも、場所が分からなくて見つからなくて来れないって言うの。でもたまにいるのよね、あなたのようにふらっと引き寄せられて来てしまう人が」確かにここには引っ張られる何かがあって店に入って扉を開けてしまったのだが、この真ん中の大きな柱は何ですか?と聞くとこれは実際に使っていた修道院の暖炉なのよ。それを聞いて、写真を撮ってもいいですか?と許可をもらいシャッターを切る瞬間に、「ここはね、夜誰もいないはずなのに、赤ちゃんがパタパタと歩く音がするのよ。なんなのかしらね。でも赤ちゃんの歩く音だから私たちはエンジェルだと思ってるの。みんな怖がるからこの事はあまり言わないけれど」

シャッター切っちゃったじゃーん。。と思いながら、まぁエンジェルなら悪いことはないですよねと言うと「そうなの、そう思ってるわ」と朗らかではあるが目つきの鋭い女性は落ち着いてそう言った。悪い気を感じたわけではなかったのでそれで失礼したのだが、もう一つ起こった出来事がある。

九州一周の旅八日目、長崎軍艦島

長崎で泊るホテルはヒルトンにした。旅行割が使えるので、長崎に行く直前にこのくらいのグレードでもいっかと他に予約していたところをキャンセルしてこっちに予約をし直してたのだが、部屋に入ると室内は海外のホテルのようにめちゃくちゃ広い。一人で泊るには本当に広すぎる、国内だと過去最高の広さかもしれない。もう普通のホテルには泊まれないのではないだろうか、トラウマになりそうだ。

半分冗談で泊まっているのだけど、スタッフはアットホームな人達で非常に親切。ホテルから新しくなった長崎駅を通り飲み屋街の方へ行くと路面電車が何本も走っていて歩道橋から見える電車群は異国的な雰囲気を醸し出す。ホテルスタッフから教えてもらった登利亭という居酒屋へ行くと、長崎郷土料理のハトシと地鶏のタタキを勧められた。食べてると隣の席にいた工事現場の監督さんに絡まれて勢いよく呑んでしまった。扉を開けて店に入った瞬間こっちを見たんで、あーこれ絡まれそうだとは思ったんだが、案の定「お兄さん、旅行?」と声をかけられ一緒に飲むことになった。おじさんは工事現場を全国的に回っているようで、これ食べてみてと”なめろう”をくれた。美味しいだろ?日本酒に合うから。とつまんで飲んでたら酔いが一気に回ってしまいおじさんが先に店を出た後に自分も店を出て、間接照明に照らされているような街中をぶらぶら歩き、そのままヒルトンホテルに着いて、ラウンジを覗いてみたらカクテルが美味しそうなので、また呑んでしまった。本当に酔ってしまい、頭がぐるぐる回り部屋に戻りベッドに倒れたが、夜景の眺めも良い部屋は広すぎるし設備は新しいしですぐ寝るのも勿体なく、だらだらテレビを見ていた。

次の日の朝は結構な二日酔いで起きたくないのに7時に起きて年配の団体旅行者が多く寛いでいるラウンジで速攻で朝食を食べて予約していた軍艦島フェリーツアーに参加する。車を飛ばして港に着くとかなりの人が並んでいて半分は修学旅行生だった。船内に乗り込むとアナウンスで「今日は波の高さが6cm近くあります。5cm以下でないと島への上陸はできません」と話している。パンフレットには年間100日程度しか上陸はできなくほとんどが船から眺める周遊になってしまうと書いてあって、まぁそんなもんかと諦めてた。しかし上陸できないと何度も話しをているのにも関わらず、上陸してからの注意事項を幾度も話すので、なんだか期待させるようなことばかり言ってるなと思ってると、島の近くになった時、「みなさん、波の高さが4.9cmになりました!上陸します!」と言い放った。ホンマかいな!(笑)修学旅行生がいるから上陸しちゃうんじゃないのコレ。みんな最初からこうなることは先生から聞いてるから知ってたような顔をしていて喜んでもいない。

というわけで自分は喜んで上陸すると、コンクリートと朽ちた廃墟の群れ。重い雰囲気かと思っていたら元気な爺さんがガイドをしていて、もうあの建物は余命半年ですとか、もう補修することもできないから、わっはっは。と話していた。神社、学校、マンションとこんな小さな島に密集して作られている。当時の人口密度は東京の9倍。驚いたのは丘の上にある巨大な貯水槽。海底に水道管を作ったようなことを言っていた。たしかに相当な人口がいたから、それくらいの貯水槽がないとこの端島の人たちは炭鉱で汚れた身体を洗うのも一苦労だったそうだ。

その後、船に乗り島の周りを周遊したのだが、船から見る島は本当に軍艦のように見えて海に漂っているようだった。この廃墟の軍艦と新幹線が開通した新しい長崎駅やヒルトンホテルが混在している乱雑な街の感覚、交差する路面電車、各所にある教会、出島など何か文化の軸がずれたような街が他の土地にはないものを放っている。

今回の旅はダークツーリズムなのでこの軍艦島はハイライトとしてって、知覧と軍艦島の初日と最後のこれしか行ってねーじゃねぇかと言われるかもしれないけど、あの地獄温泉とかね。地獄とか鬼なんてのはダークツーリズムって部類にも入れていいんだと決めてフェリーの揺れと二日酔いで気持ち悪くなって次の場所へ向かう。

九州一周七日目、大宰府~長崎県

ハイアットホテルの朝食を食べにラウンジへ行くと順番待ちをしている人たちがソファに何人も座っている。ハイアットのスタッフはきびきび動いていて忙しそうだし客層も裕福そうな人たちが多く他のホテルとは違う。それに宿泊している人たちすらきびきび動きそうな雰囲気がある。ある意味そんな雰囲気なので少し落ち着かないのだが、欠伸しながら歩いてるような自分が珈琲を飲みながらそれを眺めていると興奮剤としてと心地良い。朝食は本当に美味しくて、席に案内されて卵料理を選ぶのだけどメニューにエッグベネディクトがあったので迷わずそれを頼んでみた。ホテルの朝食でエッグベネディクトなんて食べたことがない。こんなのをよく食べてる連中は考えると自分からすると一般人ではない、オーストラリア人くらいだと思ってしまう。ブッフェにある料理は見た目も洒落ていて、クロワッサンからマフィン、ショコラなんかのパンケーキがずらっと並び、瓶に入ったラズベリーソースがのったヨーグルト、適当に取ってきたので分からないけど何かのムース。普通に買ったらいくらするんだというようなブッフェだった。ブッフェから料理を取ってきて席に座った瞬間を目がけてスタッフがエッグベネディクトを持ってきてくれて、それがプルプルして転がるような卵で、それをホークで刺した瞬間、ここに泊まって良かったと思えるほど熱い卵黄がドバっと流れた。

朝食後に駅前まで散歩に行く。歩いていると携帯電話が鳴り、誰かと思ったらこれから行く予定の長崎で予約していた軍艦島周遊ツアー会社だった。明日の波が荒そうなので島への上陸は難しいとの話。そんなことをわざわざ伝えるために電話が入るのか、連絡はありがたいが一体何人に電話をかけているのだろうか?今から来れれば上陸できますがいかがですか?と聞かれ今は博多にいるから、それに上陸できないことはよくあるそうなのでしょうがないですね、と話すと、せっかくだから上陸してもらいたいんですよねとスタッフは言った。熱心なスタッフなのでこういう連絡は嬉しい。まぁ明日行きますよ、と電話を切った。

ホテルをチェックアウトして久しぶりの曇り空の中、車を走らせて太宰府天満宮に行くと平日なのに週末くらいの混みようの学生の群れ。参道は土産屋が並んでいて観光客が団子などを食べている。天満宮を歩き本殿に行って、人込みの中参拝をして中を歩ながら思ったのだが、九州地方は歴史のある建造物があきらかに関東よりも多く、ここから吉野ケ里遺跡も車で行けることを考えるとやはり日本古代の中心はこの辺りにあったのかと考えてしまう。すぐ近くに九州国立博物館があったのだが残念ながら休館日。そこに縄文時代から近代までの貿易の歴史資料が展示されていたのでこれは絶対見た方がいいと思ってたので残念、博多なのでまた再訪するべきか。

すぐそばにラーメン屋があり行列ができていたのだが20分程並びさっさと博多で初の豚骨ラーメンを食べる。学生が多いので替え玉を兎に角何個も食べてるので回転が悪い。ラーメンは美味しくて腹も満たされたので曇り空の中、時々パラっと雨が降ったが長崎へ2時間程かけて車を飛ばす。山々の中走ってさすがに疲れた。途中パーキングで昼寝して長崎に到着。博多に比べると街中のネオンが暗い。博多が明るすぎだったのだろうか。最後のホテルにチェックインした。

九州一周六日目、福岡県門司港、博多

別府のホテルで朝の温泉に浸かり、そこから高速道路で1時間強走り、福岡の門司港に到着。門司港は海の眺めは良いし、明治大正時代に建てられた洋館が立ち並び雰囲気がいい。そしてまたもや晴天だった。九州の雨の景色が全く思い浮かばない。こんな晴れの日に港で海を眺めていると脳の中は空っぽになっていってしまう。九州に来てから一日一日経つうちに悪い考えなどが頭の中から消えていっている。昼に日光を浴び海を眺め、夜は温泉に浸かり、九州の酒のつまみを食べながら酔いが回り、半分二日酔いで起き上がってまた移動する。自分の願望がなんだったのかがぼんやりしてしまう。いや、これからの自分の願望が何かなどを問いてもそんなものはあったのだろうか。ただ何か面白いことにぶち当たりたいということから過去も含めてこうして歩き回っていただけなのかもしれない。

と思った矢先に目の前からまんまビーパップハイスクール風のリーゼント2人組が歩いてきた。やはり面白いことにぶち当たった。赤いカーディガンにスラックスでビーパップハイスクールの週末ファッションのようだ。だが、なんでこんな格好の若者が歩いているのだと思ったら、周りにはリーゼントの男達が結構いた。北九州市というのはこういう文化なのだろうか。

門司港駅は人の往来が多くて建物の写真を撮る観光客が多かった。港を散策していると旧車の展示会をしていたりと、妙に人が多いと思ったらそうか週末なのだ、休日の感覚もなくなっている。門司港で有名な焼きカレーが美味い!と思ってる時間もあまり無かったのだけど、早々と食べてそのまま1時間高速を走って博多に向かいグランドハイアット福岡にチェックインした。ハイアットなんて旅行支援がなかったら泊まらないなと思いながらホテル内を徘徊する。部屋の中は今まで泊ったことがない充実した高級アメニティで笑ってしまう。バスルームにテレビがある客室なんで初めてだ。窓からの眺めはキャナルシティなのでショッピングモールしか見えないが、まぁそれでもここはまた泊まりたいくらい部屋のセンスがいい。そこでまたもクーポン券を3000円もらい初上陸の博多の街を散策する。

博多の街は歩くのに一苦労するくらい大きすぎて、駅周辺からひたすら散策する。人はというとかなりの人が歩いている。ほとんど東京と変わらないくらいのブランドショップがコンパクトに点在している。コムデギャルソンの博多店があったので入って試着なんかして店員と話しをして中州をぶらつく。中州の歓楽街はコロナの影響で客引きも客も警戒し合っているようで話に聞くほどそれほど盛り上がってはいなかった。

夕食はキャナルシティで水炊きを食べて(この夜の店がどの店も満席でなかなか入れなかったが入った店は空いててビールを飲みながらゆっくり水炊きをつついてた)、川沿いの屋台は雰囲気は良いがどこも行列なのでホテルに戻ってせっかくハイアットだからラウンジに行って飲んでたら、カクテルは美味いし客層も見てると面白い。中年の男女がビジネスの話をこんな博多のバブリーなところでしてるのだが、ビジネスの話なんだけどビジネス自慢の言い合いになっていて、どうでもいいけど熱気があってすごく雰囲気に合っていていい。

10月は下旬、シャツ一枚で歩ける気温も良いし、街中もホテル内もほろ酔いで歩けるこの季節の博多の夜は最高に気分が良い。

九州一周五日目 九重、湯布院、別府温泉

天気予報を見るとそろそろどこかで雨が降る予定なのだが、またも晴天。今日は移動が長いので助かる。というか日常生活でもこんなに毎日晴れること自体があんまりないんじゃないだろうか。自分の場合、何故か旅に出ると晴れの日が多い。ちなみに関東地方はこの間ずっと雨らしい。

黒川の温泉宿をチェックアウトして今日も一日ドライブになるような旅程なのだが、晴れているので山道を走っていて気分が良い。この山道が雨だとなかなかキツい運転になりそうなので運が良かった。車で走っている途中にビジターセンターという道の駅のような施設があったので朝の珈琲をテラス席で飲む。晴天で山に囲まれたところで朝一の珈琲を飲むということが気持ち良すぎて平和ボケしてきて、色々な日常のことがどうでも良くなってしまった。コロナだろうが不景気だろうが至福というものは単純に結局こういう珈琲を一杯飲むだけのところにあったりしてしまう。日常だと入ってくる情報が多すぎるのだが、ここにいると色々な情報が遮断しても良くなり気分が落ち着いてしまう。結局は遮断されてしまった方が幸せなのだろうか?もしかすると、ある期間はこういうことに時間を使わないと正常な精神を保てないのかもしれない。現在の普段の生活は仕事かインターネットに24時間どっぷり接続されていて頭が休む間もないとは言われるけど、こういう機会にそれがよく分かる。日常の身近な生活にもこういった距離感をどう取り入れようか。自分なりに考えたのは人と会って話をしているだけでも変わるが、一人の時間に何をするか。たとえば楽器の練習、この文章を書く作業、特に楽器はいいと思う。演奏に集中できるので精神安定剤になるはずだ。

そしてこの後、向かった先が九重夢吊り橋という大きな吊り橋で、まぁ、ただの吊り橋なので家族連れの観光客を眺めながら長閑さを感じるだけで湯布院へ移動する。湯布院に到着するとそこは混んでいて金鱗湖はすでに紅葉で近くから中国語が聞こえてくる。

湖周りを少し散策して湯布院を出てまた山道を走り別府に到着する。湯布院にあった蕎麦屋は混んでるし値段は高いしで昼食を食べていなかったので、調べた有名な胡月という冷麺の店に行く。麺は硬めの太麺でほんの少し酸っぱいキムチの乗った冷麺でこんな夏日にちょうど良い。

海岸へ向かい浜辺を少し歩く。今回、海に行く旅程がほとんどないので来てみたが、やはり海は見ているだけで気持ちが良い。別府の観光地は地獄温泉なのでホテルのチェックインの前に行ってみることにする。海地獄が有名なのでそこへ行ってみると、硫黄の匂いがして売店の土産売り場が鬼グッズだらけ、地獄キャップ、地獄Tシャツ、ふざけている。なんだか電気グルーヴを思い出した。

海地獄自体も青い温泉でめちゃくちゃグツグツいっていて湯煙がものすごい、これもふざけている。何を楽しんでいいのか分からず微妙な感じでそこを後にした。

ホテルに着いてチェックインするのに並んでいると、目の前にカメラマンとリポーターらしき人。来そうだなと思ったら、やはり声をかけられ旅行支援クーポンを貰うところを撮影したいと言うのでOKした。テレビ大分の放送で使うそうだ。

動画で見つけたのがこれ。↓

顔も撮ったと言ってたのだが顔が映る瞬間、子供にカットが入れ替わった。大分に知り合いなんていないからどんどんとってもらって構わないのだが。部屋に行くと、今回の旅、いや、今までの旅に行ったホテルの中でも非常にレベルの低い、いや、古いからか、昭和の洋風旅館の部屋でびっくりした。今時こんな部屋があるなんて。こんな絵画、他では絶対飾ってない。ある意味貴重だ。

夕食まで時間があったので別府駅前を散策したのたが寂れている。寂れているけれど人は結構歩いているので、こういう日常が普通なのだろうか。まぁ、県庁でもないし。ホテルの温泉はなかなか良かったが、夕食はブッフェで週末だったからか家族連れで相当に混んでいた。料理はまぁ、見た目と量の多さで見させているだけで味はとくにと言うような物。適当に食べて呑んで部屋に戻る。別府は何だか少しシラケた一日で終わった。明日はここから北上して福岡県の門司港へ向かう。

九州一周四日目 熊本県 阿蘇山~黒川温泉

熊本市内の日航ホテルのそれらしい朝食をとり、今日も移動する。秋晴れの朝に少し時間があったのでホテル近辺を散策してみる。涼しくて散歩するにはちょうどいい。熊本市はなかなかの都会で鹿児島市内よりも建物が新しく作られているような街。地元の人はみな通勤時で急いで歩いているが、自分は満腹状態で路面電車を眺めていたら香港を思い出した。香港をぶらぶら歩いている時もこんな朝だった気がする。九州自体が中国に近いからだろうか、食事もそんな味付けのルーローハンが出たりする。

ホテルをチェックアウトして阿蘇山へ向かう。今夜は黒川温泉に泊まるので、阿蘇山のドライブコースを車を走らせる。今日もしつこく晴天で全く雨が降らない。毎日移動していると国内移動でもだんだん海外での移動旅の気持ちにもなってくる。何も考えずただ移動していくと日常の生活からだんだん遠く離れていき何かが覚醒して本来の自分が見えてくる。なので旅に出るなら長期間の方がいい。

ミルクロードというドライブコースはぐねぐねうねった道のりで、コーナーばかりの道路を車とバイクが飛ばしていく。スピードを出すドライブは性に合わないが結構好きなので一気に大観峰という景観の良い山々の見える場所に到着する。観光客も結構な数でみんな寛いでいる。空気も良くてしかも晴天、そんな山々に囲まれていると何もする気がしなくなってしまい、兎に角気持ちがいい。そこからまた車で阿蘇神社まで向かう。阿蘇神社は改装中だったのだが、昼に地元の名物の赤牛丼を食べる。半熟卵が載った赤身の牛丼でかなり美味い。九州に着いてから食べる肉がとにかくどれも美味い。店内は観光客でいっぱいだった。

黒川温泉の宿、南城苑には早めに到着したかったのでそのまま車を飛ばして15時頃にチェックイン。部屋は眺めの良い品の良い和室で一気に明治か江戸時代まで戻ってしまうような贅沢な空間。食事の時間は18時からと告げられどうもコース料理らしい。これはもしかするとと思ったらとんでもない格別のフルコースだった。宿は25000円くらいする自分には高級宿、ほかの宿は3,4万円くらいする温泉宿ばかりだった。はっきり言って高い。なのだが旅行支援生活をしているので結構な割引の適用になっている。こんな時でもないとなかなか泊まれない宿ではある。

浴衣に着替えて温泉街を散策してみる。川が流れてあちこちに温泉宿がありこじんまりした温泉街だった。ここはまた来てみたい場所になりそうだと思いながら宿の温泉に行ってみると、日本昔話に出てくるような眺めと白く濁った湯。外に小さな露天風呂のようなスペースがあり、そこから山や目の前の温泉宿が見える。しかも一人で入るような貸切風呂だ。立ち風呂なんていう露天風呂もあって立って入りながら景観を眺めることができる。考えたら宿泊客自体が10人いるかというくらいの人数なので非常にゆっくりと寛げてしまう。一人で来てしまったのだが、温泉に没頭できる初めての体験かもしれない。

夕食の時間になったので食堂へ行くと、コースのお品書きが置いてあり、結構な数のメニュー。一人で来ている客もいた。運ばれてくる料理は天ぷら、馬刺し、40分じっくり焼いたというヤマメ、茶碗蒸し、牛ロース、最後にご飯と味噌汁。スタッフが丁寧に説明してくれる。もはや料亭の味でこんな食事がついて25000円なんて無茶苦茶安い。結局また呑んでしまい酔っ払う。温泉宿の外はぐっと気温が下がり夜に外出する気はせず、部屋に戻ると敷布団が敷いてありそのまま寝てしまった。

九州一周三日目 鹿児島〜熊本

昨晩は城山ホテルにBARがあったので軽く呑んで(このBARの眺めが噴水がライトアップされているのが見えて昭和のゴージャス感があってなかなか良かった)朝起きて温泉に入って目を覚ましてからまた朝食会場で豚しゃぶを食べる。
今日は熊本まで移動するので早めにチェックアウトして車で高速を走らせる。熊本まで行く途中に霧島神宮があるのでそこへ向かう。この日も快晴で九州に来てから連日ずっと晴れている。霧島神宮までは高速道路で1時間くらいの距離なので途中のインターで珈琲を飲みのんびり休みながらの移動。まさに長期休暇といった感覚で気持ちがいい。
到着した霧島神宮はついさっきまで夏日だったのだが一気に気温が下がり、そこには坂本龍馬とおりょうさんの絵と説明文が書いてあった。
そこからの景観は清々しく、この二人の夫婦はよくも京都から九州まで歩いて移動したものだと思いながら参拝をして山道を高速へ向かう。

霧島神宮を出ると昼になっていたので途中の道の駅で鶏の南蛮揚げ定食を食べて(この南蛮揚げなんてただの南蛮揚げなのだが、九州の山道を車で走らせて途中で見つけた道の駅で食べる南蛮揚げは非常に美味い)
この後、人吉や水俣の街にも寄りたいと思ってたのだが意外と高速道路が長い、長すぎるので途中下車を諦めてひたすら走る、走るのだがトンネルが長すぎる。長すぎて眠い、8kmとかあるんじゃないだろうか。

とにかく走り、おそらく3時間強走って熊本に到着。その時、時刻は16時でそのまま閉館ギリギリだったのだが熊本城に向かい中に入る。城は修復されていて天守閣まで登り街を眺めて、西南戦争の時に西郷隆盛がここを占拠した絵を見ていると九州の移動と戦争の歴史が引き離せなくなる。のだが、今夜の宿泊先は熊本日航ホテルなので少し期待していくとこれが期待以上の部屋で、旅行支援のクーポン券まで頂き、スタッフにオススメされた熊本料理の店に行く。

店のカウンターに座ると料理人が兎にも角にも親切で特別に馬刺し、鶏刺し、牛刺しのお造りを出してくれて、その後に出された天草で獲れた刺身も美味しくて米焼酎を呑んだ。熊本の焼酎は米なのだそうだ。店では色々とサービスしてもらってしまい、酔いが回り熊本の歓楽街を歩く。ちょうどいい大きさの街で水商売の呼び込みのおじさんと適当に話だけしてホテルに戻る。考えたら一日中移動していたのだ。疲れたのでまたベッドに潜り込んだ。

九州一周二日目、鹿児島 知覧

朝起きると頭が重い。二日酔いでなんとか起き上がって大浴場に向かい桜島を眺めながら温泉に浸かり目を覚ます。
城山ホテルの朝食を食べに行くと朝食会場と大きな案内表示があり、朝から豚のしゃぶしゃぶが食べられる。
今日は鹿児島の南の方、知覧という地区へ向かう。車で約1時間、なのだが途中から山道になるので意外と遠く感じる。鹿児島の街は街路樹が南国の植物の様で台湾の街を思い出しながら車を走らせる。
向かった知覧では武家屋敷と特攻隊平和記念館が見ることができる。

知覧に到着してまずは武家屋敷を歩く。江戸時代に作られた庭園を見ながら歩くのだが、先々のホテルの予約をしないとならず、時々ベンチに座ってホテルに電話をする。旅行支援のキャンペーンが始まり電話が全く繋がらない。
諦めて武家屋敷を歩く。
昨晩のジャズBARでも客に話しかけられたが、武家屋敷でも「あぁー、あなたは。どうもどうも、今日はどうされたんですか」と声をかけられる。人違いと言ってるのだが引かない。一体誰と間違われてるのだろう(笑)

そしてこの後に訪れた特攻隊平和記念館。
結局はここが今回の旅でも一番印象の強い、強すぎるところになってしまった。
ほんの少しは感度の分かる人間だと自分では思うのだが、この場所は漂っている気が強すぎる。
大戦中に零戦で軍艦に特攻して亡くなった軍人、約1000人の若者の写真、遺書、遺品の実物が四方八方に掲げられている。それらに取り囲まれていると重すぎるくらいの気の圧力にやられてしまいそうになるのだが、後で調べてみると感受性が高い人は途中で出てしまうそうだ。

外を歩くと灯籠が幾本も建てられており、先程まで汗ばむ陽気だったのだが、ここに到着した時から気温が下がり少し冷んやりとするのは故人の熱気を冷ますように偲んでいるからだろうか。
ダークツーリズムという観光形態があるが負の遺産に興味があるならば、ここに来た方がいい。
良くも悪くも僕らが今生きているこの時代はこの人達が作った未来の線上にいる。

市内に戻りキャベツが載った鹿児島の豚骨拉麺を食べてホテルへ戻る。今日一日は知覧だけで終わった。ホテルのBARで軽く飲んでいたのだが、知覧の記念館で響いてた爆撃音と空襲警報が頭から離れない。

九州一周の旅 1日目

さてと、まずは期間は8泊9日間。
鹿児島を出発地点して長崎を目指す旅程になっている。


成田空港から鹿児島空港に午前中に到着してレンタカーで鹿児島市内へ。気温はやや高くて初秋のような気温。レンタカーの値段がやはり高くて9日間Vitzクラスで8万円強。まぁ、車がないと一周も横断もできないのでこれはしょうがない。

昼頃に鹿児島市内に到着したので昼食はやはり鹿児島名物が食べたく調べてみると近くに「あぢもり」というしゃぶしゃぶの有名店があった。入ってみると、とんかつ定食を薦められたのだが、しゃぶしゃぶのことを聞くとしょうしょうお待ちくださいませと待たされ、どうやら予約必須だったようだ。上の階の座敷に案内されて着物を着たスタッフが肉と具材を持ってきた。初の一人しゃぶしゃぶ高級店(笑)個室の座敷が立派でなんだか接待でもされてるようで料理もだし汁もかなり美味い。汗をかいてしまい、店を出て天文館という変わった名前の商店街を歩く。この天文館という商店街が街のへそのようだ。商店街は昔ながらの雰囲気で昭和感が残っていて人も沢山歩いているので好きな雰囲気だった。やはり地方都市はいい。

その後、薩摩藩、島津家の仙巌園を見学する。この庭園からの桜島の眺めがかなり良くて、屋敷の中も和洋中が混ざったような独特の内装と家具であった。そこから車を走らせ西郷隆盛像や御桜門のあたりを歩き、日も暮れてきたので有名な城山ホテルへチェックインする。

チェックインしてすぐに桜島を見ながらホテルの温泉に浸かり、夜は天文館を和牛を求めて彷徨い、やっと見つけた店で和牛ステーキ。フィレを切らしているというのでシャトーブリアンを薦められ、一口食べて「あの、すいません、感動しました」と料理人に伝えながら赤ワインを何杯も飲む。たしか五杯は飲んだ。そしてラムシンのステーキ100gをお代わりして店を出た。

すっかり酔って気持ち良くなったので帰り道に見つけたジャズBARに入ってマスターと他の客と閉店まで盛り上がり、エディット ピアフからユーミンまで色々聞かせてもらう。戦時中に聞くピアフのレコードはいつもとは違う。

すっかり遅くなってしまいタクシーで丘の上にある城山ホテルに戻る。城山ホテルは街に出るのに送迎バスを出してくれる昭和で少しハイソなホテル。そのまま倒れるようにベッドに入り込んだ。

ピアフの歌を聞いていた後に、以下の文章を見つけた。

人間は、幸せだから歌うのではない、歌うから幸せになるのだ
ウィリアム・ジェームス

九州一周の旅 ダークなまっぷる九州旅行支援ツーリズム (その壱イントロダクション)

仕事上、今年の夏休みを取らないとならないことになっていて、しかしコロナの感染者も増えてるのでいつにしようかと思っていたのだが、10月あたりいいんじゃないかと適当な日程を申請していたら、申請していた日がちょうど旅行支援のスタートする日に被ってしまい、支援されるおめでたい奴な旅になってしまった。

本当は混むので嫌な気もするのだが、日に8,000円も還元されるのならと思い、ちょっとプランを練るのを頑張ってみた。行先は九州あたりかと前々から考えてはいたのだが、同時に負の遺産を巡るダークツーリズムの入門書を読み、それの正反対のまっぷるの九州ガイドブックも並行して読んでいた。読んでる矢先、一週間前くらいにいきなり旅行支援のスタート日が発表されたもんだから、agodaサイトで予約してたホテルはどーなるんだ??と謎だらけの旅程で出発になった。この時、最初の鹿児島と黒川温泉宿は電話で直接予約に変更しており、他のホテルは仮予約になっていた。

ここで、「ダークなまっぷる九州旅行支援ツーリズム」にテーマが決まり成田空港から出発することになった。初日の九州は鹿児島から始めることにした。